コラボレーション Collaboration

レポート

【EUに関する新刊】羽場久美子『ヨーロッパの分断と統合 拡大EUのナショナリズムと境界線 包摂か排除か』(中央公論新社、2016年3月24日刊行)

haba羽場久美子『ヨーロッパの分断と統合 拡大EUのナショナリズムと境界線 包摂か排除か』(中央公論新社、2016年3月24日刊行)

本書の著者である羽場久美子先生より、本書のご紹介を頂きました。

——————
現在ヨーロッパは危機にある。同様の状況が、アメリカ、日本にも存在する。パワー・シフトと呼ばれる新興国の成長と先進国の頭打ちが、今ほど明白に表れている時はない。

特にヨーロッパは、冷戦終焉後の欧州統合とEUの拡大による積極的な15-18年間の後、リーマン・ショック、ユーロ危機に続く長い経済停滞の中で、とりわけここ5年間は、「規範の帝国」自体の価値の頭打ち状況が始まっている。

拡大EUの境界線、および「多様性の中の統合」を掲げたEUの内なる境界線を巡り、南北格差、東西格差の拡大、移民と雇用・市民権の問題、難民と社会保障の問題が浮上し、そうした中でナショナリズム、ゼノフォビアを掲げ右派が成長している。また東欧拡大を超えウクライナに「革命」が起こると、境界線を巡るEU・NATOとロシアの対立、さらにウクライナ内部の東西対立・クリミアの分裂が、終わらない戦争を生んでいる。

冷戦の長い欧州分断を経て、1989年ようやく欧州の東西統合が実現し、「一つの多様なヨーロッパ」を旗印に拡大・深化してきたヨーロッパは現在、新たな分断の危機を迎えている。

本書は、そうした欧州の分断と統合の70年、特に冷戦終焉後の25年に焦点を当て、ヨーロッパの分断と統合、ナショナリズムと境界線、包摂と排除の問題を、克明に論じている。その根底には、クシシトフ・ポミアンが言うように、ヨーロッパの歴史とは、境界線を巡る分断と統合の歴史であり、分断と紛争の海の中に統合の島が存在した、という理念がある。またノーマン・デイヴィスが言うように、近代のヨーロッパはあたかも東欧や南欧がなかったかのように西欧中心に描かれてきたが、ヨーロッパは単一でなく多様であり、またヨーロッパの境界線は幾重にも時代の中で書き換えられてきた、それを排除するのではなく包摂して、多様で変容し苦悩するヨーロッパ史が描かれなければならない、という理念がある。

本書は、冷戦の起源としてのヨーロッパの東の分断と排除から始まり、冷戦終焉と欧州の再統合、拡大の中での新たな「壁」の形成、EU拡大に伴う多様性と東西格差の拡大、移民流入に対するナショナリズム・ゼノフォビアの成長、境界線を巡るヨーロッパ・アイデンティティと「中欧」理念の相克、EU・NATO拡大のリアリティ、ウクライナを巡る大国と国内のせめぎ合い、多様性の中での包括と排除のメカニズムを、詳細に検討している。

しかし、現在のヨーロッパにおける右派の成長や移民・難民排斥、テロの増大や、イギリスの離脱を巡る危機の中で、筆者はそれでも「EUに未来はある」と考える。それはアメリカとは異なる社会規範、国際規範を持ったEUが、抬頭するアジアやアフリカとも連携しながら、グローバル化の中で起こっている21世紀の諸課題に直面し、「多様性の中の協働」として、グローバル時代を生き抜くメカニズムを創造的に作っていく姿勢と可能性を持つからである。

拡大EUは既にモデルではない。しかし分断と対立の危機の中で、統合と協働、排除でなく包摂によって問題を解決していこうとする限り、苦悩の欧州から学ぶところは大きいことを、本書は示している。