コラボレーション Collaboration

レポート

「Euro-Asia Summer School体験記」外谷毅史 (一橋大学大学院社会学研究科)

2016年8月22日より9月2日まで、私は一橋大学とKatholieke Universiteit LeuvenにおけるThe 8th Euro-Asia Summer Schoolへ参加した。当サマースクールは、2009年より毎年、欧州とアジアで1週間ずつ計2週間の期間で開校されているもので、今年はEUSI(EU Studies Institute in Tokyo)、ルーヴァン・カトリック大学、ソウル国立大学より約10名の学生が参加することとなった。今年はEast Asia and the European Union in Global Governance: Comparative Perspectivesをテーマに、日本及び韓国、欧州の教授・研究者によるEU関連の講義やプログラムが組まれ、主にEUとアジアにおける地域統合やグローバル・ガヴァナンスについて活発な議論が行われた。本稿では、稚拙ながら、当サマースクールでの出来事を振り返りつつ、実際に自身が参加した上での学びや気付き、感じた事などについて、以下に述べてみたい。

まず、8月22から8月26日における前半の一週間は、一橋大学で開催された。台風の到来もあり、あいにく悪天候の中で初日を迎えることとなったが、オリエンテーションやガイダンスの後、EU専門の教授による講義が行われた。午前は、主に欧州における人と人の交流を通じた教育や文化促進、実践プログラムが紹介され、そこからアジアとの比較や日本への視座、コミュニティ強化の重要性などが講じられた。午後には、EU法に関する講義があり、日欧の経済連携協定や法的課題、リスボン条約の規定などが説明された。私はとりわけ、前半の欧州における地域コミュニティの話が興味深く、シェンゲン協定で定められた人の自由な移動の保障やEUでの平和推進、エラスムスなどの教育促進の実践などが、コミュニティ強化や欧州市民の育成に不可欠であると強く感じた。その後は、最終日の発表に向けたグループ分け及びワークショップ、ウェルカムパーティがあり、参加者同士の親交を深めるとともに、和やかな雰囲気の中で、初日を終えることとなった。

翌日は、引き続き講義を中心にプログラムが構成され、とりわけ日本のODA(Official Development Assistance:政府開発援助)政策やJICA(Japan International Cooperation Agency:国際協力機構)による途上国支援の取り組み、WB(World Bank:世界銀行)とADB(Asian Development Bank:アジア開発銀行)、AIIB(Asian Infrastructure Investment Bank:アジアインフラ投資銀行)の比較、国際政治経済学とブレトンウッズ体制、日本の移民政策などが紹介された。私は中でも移民問題に強い関心を寄せ、現行の政策や移民に関する統計データ、他国との比較から、国際社会における日本の位置付け(人口に占める移民の割合や法務省による難民認定者数など)について改めて学ぶ契機となった。また、EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)に基づくフィリピンやインドネシア、ベトナムからの介護福祉士や看護師の受け入れ制度も触れられたが、現行の試験制度や在留資格の期限、研修先や受け入れ機関における支援、労働者の労働条件や環境など、幾多の問題点もあり、そうした現場で働く方々の声に真摯に寄り添う形で、制度も今後改善していく必要があるように思う。

三日目は、ADBI(Asian Development Bank Institute:アジア開発銀行研究所)及び国会議事堂、外務省へ訪問し、各々の見学や機関の紹介、専門家による講義を受けた。具体的には、ADBIでアジアにおける持続可能な成長のためのインフラ・ファイナンスや地域の経済統合、エネルギー政策、国会で議事堂内の建物や歴史、議会の仕組み、外務省で日欧の関係(経済や安全保障、日欧サミット等)などである。日欧に関しては、日本と欧州が民主主義や法の支配、人権といった基本的価値や原則を共有し、共通の立場で地球規模の課題に対処することの重要性を再認識する一方、日本の死刑制度の存置も指摘されるなど、未だ課題も多く残っており、今後の国内での議論の醸成に期待したい。

第四日目は、金融や経済を主とする講義が中心で、世界金融危機や欧州財政危機、アジア金融危機の教訓などが話し合われた。続く最終日は、東アジア地域における通貨協力が議論された後、グループ発表があり、4つの班が経済や政治、教育、文化といったテーマの下、一橋での前半週の学習成果の場として、プレゼンテーションを行った。詳細は省略するが、私の属したグループは欧州とアジアにおける教育及び文化プログラムの比較と題し、初日に講じられた欧州での人と人の交流プログラムの実践を参考に、アジア地域での取り組みを調査、欧州とアジアの比較や今後の連携の必要性などを論じた。具体的に、アジアでは日本のJENESYS(Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths)やFRIEND(Framework Initiative for Exchange Networks and Dialogues:日・EU間の人的交流と対話を促進するための枠組み)、韓国の財団AEA(Asia Exchange Foundation)やTCS(Trilateral Cooperation Summit:日中韓三国協力事務局)による教育や文化交流、シンガポールのThe Asia-Europe Foundation (ASEF)によるThe ASEF University projectや Asia-Europe Meeting (ASEM) など、多くのプログラムが企画・実行されてきた。未だ欧州のエラスムスほど、地域内での学術交流は盛んではないが、近年はキャンパスアジアなど大学や協定プログラムの動きも増えている。今後ますます人的交流を図り、若い世代が他国の人々と対話や議論の場を経験し、相互に理解を深めることを期待したい。

前半週のプログラムを終えた後は、週末に日本からベルギーへの移動を経て、ルーヴァン・カトリック大学へ移り、新たな地で後半のプログラムが再開することとなった。ルーヴァン大学での初日は、まずグローバル・ガヴァナンス研究センターの教授や日本学科の教授による歓迎の祝辞に始まり、当センターによる講義が行われた後、ルーヴァン市内のガイドツアーがあった。講義は、EUの統合プロセスとグローバル・ガヴァナンス、欧州の経験と東アジアへの視座、EU再考(欧州の終焉)などが主たるテーマであった。とりわけ、統治の形態(多国間主義、地域統合体、超国家機構等)やウェストファリア体制とその後の国際システムに関する内容は興味深く、Brexitや近年の国際情勢を踏まえた上での提言、すなわち21世紀の文脈においてはグローバルな視点やEU域外の社会利益を考慮しながら、「欧州の枠組みや利益を超えて欧州を再考する」必要があるということが(これは大戦後のJean Monnetの標語である‘transcend the national framework and conception of national interests’を再検討した上での表現だが)、強く印象に残った。何にせよ、21世紀に生きる地球市民として我々は、現況の国際情勢を鑑みながら、既存の枠組みを超え、より良いグローバル・ガヴァナンスのあり方を絶えず思考していく必要があろう。

翌日は、グローバル・ガヴァナンスにおける欧州アジアの二国間・多国間関係を主題に、貿易交渉やアジアのインフラ、AIIB、アジア(韓国、中国、日本)におけるEU戦略的パートナー、気候変動問題と交渉プロセス、EUにおけるEEAS(European External Action Service:欧州対外行動庁)の役割などが話し合われた。ここでは、気候変動問題における首脳レベルの会合、交渉プロセスの困難さを改めて認識するとともに、地球規模の課題解決に向けて今後どのような国際間での意思決定が望ましいのか深く考えさせられる結果となった。また余談だが、欧州対外行動庁は、リスボン条約により設置された、比較的新たな組織であるが、その仕組みや構成は非常に難解かつ複雑で、専門ごとに業務も分かれており、その内容を把握するのは容易でなかった。ただ加盟各国と欧州委員会、EU理事会の各々の調整役として、対外政策にとって大変重要な役割を担っているものであり、今後の取り組みに注視していきたい。

第三日目はベルギー西部のYpres(Ieper)へのフィールドツアーがあり、戦争記念館や墓地、フランダースフィールズ博物館などを訪れた。この街は、第一次世界大戦の戦地の一つで、近郊には戦士の墓地や爆撃跡などが数多く残されている。博物館には、当時の軍服や兵器などが展示され、詳細なビデオ解説付きで戦争の歴史を学ぶことができるよう工夫されている。日本でもこうした歴史博物館を増やし、そこを訪れる人の誰もが静かに歴史を刻むことのできるような場が必要であるように感じた。

翌日の午前は後半期のハイライトとして、EUの新たなグローバル戦略と題し、特別ワークショップが開催された。演者は欧州議会の対外政策担当の所長や欧州におけるグローバル戦略の研究者及び教授、EEASでアジア戦略を担う専門家等である。ワークショップは3つのセッションに分かれ、それぞれEUの新グローバル戦略、実現性、アジアへの視座に関して議論が行われた。私は、最後のアジアに重点を置いたパネルに興味を抱いたが、何人かの演者から指摘があった通り、2016年6月に発行されたEUの新たなグローバル戦略(外交・安全政策)ドキュメントでは、アジアに割かれたページは僅か数ページで(中でも大部は中国への言及)、アジアとりわけ日本のプレゼンスが低下、或いはさほど重要視されていない点は残念であった。中国のOne Belt One Roadプロジェクトや南シナ海の問題など、中国がこの地域に与える影響や安全保障について、EUの関心は強く向けられているように思う。最終日は、午前中のみEUと日本、インドの関係について発表があり、両国から見たEUへの視点が議論された。

以上、今年のサマースクールの内容を簡単に時系列でみながら、感想を述べてきたが、改めて振り返ってみると、内容の濃い二週間であった。私自身、EUとグローバル・ガヴァナンスについて学ぶのは今回が初めてで、政治から経済、法、文化まで様々な視点でEUとアジアを見るのは新鮮かつ、多くの学びや気付き、発見の連続であった。また、短期間ながらも欧州や韓国の参加者と共に過ごした時間は一生の宝物で、帰国した今でも時おり連絡を取り合い、交流を続けている。こうした有意義な時間を過ごすことができたのも、何より今回参加の機会を与えて下さった一橋大学、ルーヴァン大学の関係者の方々の尽力によるもので、この場を借りて心より感謝申し上げたい。世界に目を向けると、地球規模の課題が山積みし、現代はますます混迷を極める時代であるが、こうした危機的状況の中でこそ、人と人の交流を通じた今回のようなプログラムは、異国の他者とのより良い相互理解を深めるためにも不可欠であり、問題解決のための一歩となると信じて疑わない。今後ともサマースクールが継続され、より良いプログラムと共に欧州とアジアの関係が深化すること、切に願っている。