コラボレーション Collaboration

レポート

「7th Euro-Asia Summer Schoolを終えて」並木優斗 (一橋大学大学院国際公共政策教育部グローバルガバナンスコース修士1年)

Euro-Asia Summer SchoolはEUとアジアにおける地域統合、およびこれらの地域から見たグローバル・ガヴァナンスについて学ぶことを目的としたプログラムである。今年は韓国とベルギーでそれぞれ1週間ずつ開催され、日本、韓国、そしてヨーロッパの国々から、多様なバックグラウンドを持つ学生が参加した。私はと言えば、学部では米文学を専攻しつつ英語教師を志して勉強に励んでいたが、「教育のグローバル化」と呼ばれる現象に関心を持ったことがきっかけとなり、現在は一橋大学国際・公共政策大学院のグローバル・ガヴァナンスコースに所属している。それまでの自分にとっては思いがけず、「グローバル」と名のつく大学院に迷い込んでしまったわけだが、残念ながら海外経験らしいことは一度もない。本稿は、そのような浅学かつ今回初めて海外という大海を知った蛙の記録である。

日本からベルギーまでは飛行機で13時間。機内で席が隣だったアラブ系の方から積極的に話しかけていただいたこともあって、心身ともに疲労した状態でベルギーへ到着した。
しかし、現地では見るもの全てが新しく、あまりの驚きに疲れも吹き飛ぶほどであった。綺麗に並んだ石づくりの街並み、荘厳な市庁舎、電車には改札がないが、犬のための乗車券はある優しい街。たまたま入ったカフェにあった非常口の表示は日本のものとよく似ていたが、かなりの前傾姿勢で緊迫感を演出していた。ベルギーワッフルが美味しかった。終始きょろきょろしながら歩いていたため、周囲からは挙動不審に見えたに違いない。

ベルギーでのプログラム初日は二つの講義を受けた。一つは、会場となったルーヴァン大学で「EUの統合過程は東アジアにおいて適用可能か」をテーマに、両地域を地理的・経済的・政治的側面からそれぞれ比較分析したものであった。二つ目は、場所をブリュッセルのEEASの施設を移し、EUの対外政策をアジアとの関係に的を絞ってレクチャーしていただいた。両講義によれば、フランス・ドイツ・イギリスと言った大国間のパワーが均衡しているEUと比べ、そうしたパワーバランスを欠く東アジアの統合は容易ではない。しかし、EUでの長きにわたる対話、そして経済市場統合から始まった統合過程は、東アジアの統合へのベンチマークとなる可能性がある。また、EUと東アジアは難民やサイバーセキュリティといった共通の問題を抱えており、EUはグローバルアクターとしてアジアと戦略的なパートナーシップを結ぼうとしている。こうしたEUの取組は「ソフトな安全保障を用いたハードな安全保障制度の構築」という方針に集約されると思われる。ただ、EEASの当の職員の方から、ソフトな安全保障のアプローチの見えづらさからその有効性に疑問を呈する場面もあったことは、個人的に興味深かった点である。

二日目の講義はEUとアジアの貿易・ビジネスの交流に焦点を当てたものであった。経済分野に疎い私にとっては難しい内容であったが、多くの教授からの学術的な分析と、欧州委員会の方々から実務家としての意見を拝聴できたことは、学問と実務の違いを考える上で非常に有益であった。例えば、前者では大枠として、二国間と多国間の取り決め(FTAとWTOなど)の長短に関心が集まっていた一方で、後者ではより内容に踏み込んでEUが相手国との取り決めの条件として課す「法の支配」を巡る、受益者である市民と国家の間に生じる対立に関心が集まっていたように感じた。

三日目はフィールドトリップとして、第一次世界大戦の古戦場と同大戦にゆかりの深いイーペルの街を訪れた。最初に訪れた英連邦の墓地では名前も国籍も不明な墓石が数多く並び、戦争の凄惨さを思わせた。イーペルは第一次世界大戦において大規模な毒ガス攻撃が行われた街で、歴史博物館とパレードを見学することができた。

四日目は安全保障と人権をテーマに講義が行われ、その後は最終日のグループ発表に向けた準備が行われた。講義の中でEUに特徴的だった点として、安全保障と人権が不可分に結びついていることが挙げられる。例えば中国との関係においても、EUは政治・経済といった分野を問わず、国から市民レベルまで人権の保護を求めて対話を続けている。ここに見られるのは、EUが統合の歴史で加盟国間と共有してきた「人権」「法の支配」「民主主義」といった規範が、グローバルアクターとして振る舞う際の重要な武器となっていることではないだろうか。五日目のグループ発表の詳細は紙幅の関係で割愛するが、私たちのグループはEUの難民問題を事例に、安全保障と人権保護のジレンマをテーマに発表を行った。

プログラムを終えて帰国した時、出迎えてくれた家族の第一声は「肌焼けたね」だったが、このプログラムでの経験がもたらしてくれた変化は無論肌の色だけではない。百聞は一見に如かずと言うが、実際にヨーロッパを訪れることで、EUについて実感を持って学ぶことができた。また、あまり詳述することはできなかったが、現地で出会った他の参加者との交流は、飲み過ぎたお酒のせいで記憶が薄れる部分はあるものの、私にとって貴重な財産である。このプログラムで得た知識と問題関心を自身の研究に活かすことで、この経験を真に意味のあるものにしたいと思う。このような機会をいただけたこと、誠にありがとうございました。