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レポート

【アジア・太平洋EUセンター大学院生ワークショップ参加報告】「EUエネルギー外交におけるインフラ政策との連関 (台湾での国際ワークショップ参加報告をかねて)」(石井雅浩)

「EUエネルギー外交におけるインフラ政策との連関(台湾での国際ワークショップ参加報告をかねて)」
石井雅浩(一橋大学大学院法学研究科法学・国際関係専攻博士後期課程)

昨年12月、台湾の国立台湾大学に於いて行われたEUTW JM国際ワークショップ “EU New Trade Strategy and Inter-regionalism” に併せて、アジア・太平洋大学院生ワークショップ “Crisis and Opportunity for the European Integration under Challenge” が行われた。私はこれにEUSIから参加させていただいた。本エッセイでは、その様子と拙報告 “Infrastructure as a Mean of Energy Diplomacy” について簡単に紹介させていただきたい。

1. 国際ワークショップの様子

国際ワークショップは、欧州経済貿易事務所(歐洲經貿辦事處、EETO)のMs. Majorenko處長の基調講演から始まった。ワークショップでは、15本の研究報告がなされた。EUが進める自由貿易交渉に関連し、EU-カナダのCETA 、EU-アメリカの自由貿易交渉であるTTIP、アメリカとアジア太平洋の枠組みであるTPP、EUとアジア諸国との貿易交渉、中国が進める「一帯一路」戦略とV4諸国との関係、Brexitが与える影響、ISDS条項などを複合的に扱う幅広い報告がなされた。

各報告や質疑応答、ラウンドテーブルでの討論では、アメリカ大統領選挙でTPPやNAFTAなど自由貿易枠組みに反対する発言を繰り返したトランプ氏の当選後かつ就任前という時期もあり、貿易自由化に対する予見可能性が低下するなかでの議論となった(その後、トランプ大統領は就任早々の1月23日にTPP離脱の大統領令に署名している)。

大学院生ワークショップでは、19本の報告がなされた。貿易、投資、環境、研究・開発、データ保護、海賊対処、金融、難民、市民権、庇護政策、文化、エネルギー、雇用、国境管理など報告内容は多岐にわたった。どのテーマも現在EUが抱える課題を投影しているものばかりであり、質疑応答も盛況に行われた印象が残る。 

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2. 拙報告 “Infrastructure as a Mean of Energy Diplomacy – Challenge and Opportunities with EU Neighbourhoods – ” について

現在EUは、エネルギー外交の強化を進めている。本報告はEUのエネルギー外交について、エネルギー政策とインフラ政策の関係に着目した。EUはエネルギー・インフラを当然のことながらインフラ政策とエネルギー政策の両面から位置付けている。EUによる域内外でのエネルギー・インフラ政策の推進は、エネルギー政策と連動し、その対外的側面であるエネルギー外交に影響を与える要因である。特に相互連結性(interconnectivity)を高めるというエネルギー政策とインフラ政策の結合点(TFEU 194条1項(d))は、EUのエネルギー外交の強化につながるものと位置づけられよう。

2-1. EUのエネルギー政策の発展と対外的側面
かつて欧州統合の中心はエネルギー資源であったといわれる。それにもかかわらず、石炭、原子力から他のエネルギー資源への対象分野の拡大は長年生じず、石油危機を受けた石油備蓄に関するエネルギー危機対応指令が1973年に出されるなどの限られた進展しかみられなかった。これは、第1次法の限界や加盟国の抵抗から説明される(1)。それゆえに、エネルギー政策の発展をやや単純に整理すれば第1次法の発展が鍵となる。単一欧州議定書を契機とする共通市場からのアプローチによってガス市場、電力市場分野への拡大が生じた。そして、リスボン条約によりエネルギーは共有権限分野として明記されるに至っている。

リスボン条約以前のエネルギー外交は限定的かつ「域内市場の対外的展開」でしかなかったとされ、リスボン条約によりEUのエネルギー外交はその手段を拡大する可能性を手にしたと指摘される(2)。そもそも首脳レベルでのエネルギー外交への関心が高まったのは、2005年10月の英国ハンプトン・コートでの欧州首脳会議だった。これを受け、2006年に欧州委員会が公表したグリーンペーパーは「一貫した対外エネルギー政策」を提案している。その後も、共通エネルギー政策の必要性が指摘され、2010年に出されたコミュニケ『エネルギー2020』(3)は具体的な行動案等を提案している。この動きを加速させるものとして、ユンカー欧州委員長の優先政策の1つに挙げられた「エネルギー同盟」政策も位置づけられよう(4)

この「エネルギー同盟」の名のもとに、EUエネルギー外交の強化が進展している。2015年2月のいわゆるエネルギー同盟パッケージ(5)は、欧州委員会に対しエネルギー外交を加速することを要請した。同年3月の欧州理事会でもエネルギー同盟の対外的側面の重要性が認識され、7月の外相理事会では「エネルギー外交行動計画」(6)が採択された。加えて、2016年6月の新グローバル戦略において、エネルギー安全保障は安全保障上の優先事項の1つとされ、エネルギー外交を通じたエネルギー・インフラの確立と近隣諸国との協力が重要視されている。

2-2. 多層的な優先ステータス
「エネルギー同盟」のもとで、エネルギー・インフラの整備促進による「相互接続性」の確保が進んでいる。これはEUのエネルギー・ネットワークの脆弱性を低下させ、エネルギー外交をより有利に展開していく上でのパワーの源泉を強化するものと理解できよう。

EUのインフラ政策には欧州横断ネットワーク(TEN: Trans European Networks)がある。域内市場完成のために導入されたTENは、運輸、エネルギー、テレ・コミュニケーションの3分野で進められている。エネルギー分野は、欧州横断エネルギー・ネットワーク(TEN-E)(7)と呼ばれ、欧州にとって利益のある優先的に進めるべきインフラを選定してきた。その性質上、EU以外の国のインフラ計画も条件を満たすことで選定の対象となる。

2013年からの現制度では、共通の利益プロジェクト(PCIs: Projects of Common Interest)という優先ステータスを設け、ネットワーク開発10カ年計画(TYNDP)に記載されるインフラ計画から更に厳選する形式で選定している(8)。PCIsに選定されると、調査、建設、運営にあたって一定の特権的地位が与えられる。例えば、INEA(Innovation and Networks Executive Agency)が運営する欧州接続ファシリティ(CEF: Connecting Europe Facility)から財政的支援を得ることも可能となる。CEFのエネルギー分野には、2014-20年の多年度で46億ユーロの予算枠が設けられている。

さらに、EUによる優先ステータスの付与は他の政策や国際的枠組みと結びつき、欧州にはいくつもの優先ステータスが多層的に形成されている。EUのPCIsには、12の優先回廊及び課題に対応する地域グループが形成されている(天然ガス4回廊、電力4回廊、石油1回廊、その他3課題)。各地域グループが地域リストを作成し、それらを欧州委員会が調整し全体リストとして公表している。この地域グループの1つである中東欧・南東欧(NSI-East)地域グループの下には、ハイレベル・ワーキンググループ(HLG)が別途設立され、同地域における最優先インフラの選定を行い、リストとして公表している(9)。また、ウクライナ危機によるエネルギー不安の高まりの中で欧州委員会が2014年に公表した『エネルギー安全保障戦略』は、エネルギー安全保障上鍵となるインフラ(KSSIPs)を選定し公表している(10)。加えて、EUが近隣諸国と進める国際条約枠組みであるエネルギー共同体(Energy Community)においても、エネルギー共同体の利益プロジェクト(PECIs)を選定し、公表している(11)。このように、欧州のインフラ計画には多様で多層的な優先ステータスが存在し、相互接続性の確保が進められている。

eutw-jm2016-04 2-3. 報告のまとめ
PCIsのうちガス事業に限ってその現状をみていきたい。2014年から2016年にCEFから38事業に最大約8億ユーロの予算枠が設定されている。予算枠の獲得実績としては、6事業で計5.2億ユーロを獲得したバルト海沿岸地域が最大の受益地域となっている。6事業のうち3事業は建設費用に対する助成である。これに次いで、南ガス回廊が、9事業の調査等に1.9億ユーロを獲得している。

バルト海沿岸地域は相互接続性を欠いており、ポーランド-リトアニア間やフィンランド-エストニア間は現状ガス供給網が結び付いておらず、これを解消するインフラ計画に対してCEFからの助成が確保された。南ガス回廊は主としてカスピ海の天然ガスをアゼルバイジャン、ジョージア、トルコを経由しギリシャ、アルバニア、そしてイタリアへと供給するガス・パイプライン計画である。同事業は、CEFの他にもいくつかの国際投資銀行から融資を受けている。このように、優先ステータス付与とインフラ計画の促進が効果的に連動する事例がみられる。一方で優先ステータスを得たとしても、インフラ計画が停滞している事例も存在している。

本報告の結論として、EUのエネルギー外交は他の政策領域と密接に連関しており、エネルギー・インフラ政策は、域内で抱える脆弱性の解消に寄与する面を有し、エネルギー外交と連関する代表的な政策領域といえる。

おわりに

アジア太平洋地域の大学院に所属しEUを研究対象とする仲間に新たに出会うことが出来たこの機会は大変貴重な場であった。本大学院生ワークショップは、6本の論文(修士課程3本、博士課程3本)をベスト・ペーパーとして選出しており、拙稿がその1つとしてBest PhD Paper Awardに選出されたことは身に余る光栄であった。日頃からご指導を頂いている法学研究科の山田敦教授には草稿段階からコメントを頂いた。また、慶応大学の田中俊郎名誉教授には、本ワークショップへの参加者選定時から現地でも大変お世話になった。ここに記して感謝申し上げる。

EUSIには2014年のサマースクールへの参加以来、スカラーシップをはじめとして大変お世話になった。今回の台湾での研究報告もEUSIがあったからこそ参加できたのであり、そのEUSIが3月末をもって活動を終えてしまうことは、極めて残念でならない。今後もEUSIを通じて得た知見を活かし研究に精進していきたい。

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[1] Biesenbender, S. (2015). “The EU’s Energy Policy Agenda: Directions and Developments.” in Tosun, J. and et al, Energy Policy Making in the EU. London: Springer.

[2] Van Vooren, B. (2012, November). “Europe Unplugged: Progress, Potential and Limitations of EU external energy policy three years post-Lisbon.” SIEPS Report, No. 5.

[3] European Commission. (2010). Energy 2020 – A Strategy for Competitive, Sustainable and Secure Energy. COM(2010) 639 final, 10 November 2010.

[4] 「エネルギー同盟」は、エネルギー外交やエネルギー・インフラに限定されず、電力市場や再生可能エネルギー、技術・開発など多岐にわたる領域をカバーする政策枠組みである。

[5] European Commission. (2015). A Framework Strategy for a Resilient Energy Union with a Forward-Looking Climate Change Policy. COM(2015) 80 final, 25 February 2015.

[6] Council of the European Union. (2015). Council Conclusion on Energy Diplomacy. 10995/15. Brussel, 20 July 2015.

[7] 法的根拠は、TFEU 170~172条及び194条1項(d)である。

[8] 共通の利益プロジェクトは、2年ごとに選定され、2013年の第1回目の公表では248事業が選定された。2015年は、195事業が選定され、その内訳は電力108事業、ガス77事業、石油7事業、スマート・グリッド3事業であった。

[9] 2015年7月、HLGは、同地域の21のインフラ計画を評価し、6事業を優先計画、3事業を条件付優先計画として公表した。

[10] 同リストは、全てで33事業を選定している。その内訳は、短期的に重要な事業としてガス10事業、電力2事業、中期的に重要な事業としてガス17事業、電力4事業である。

[11] 2013年10月に35事業が採択されている。