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【EUに関する新刊】小井土彰宏編『移民受入の国際社会学 選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会、2017年3月6日刊行)

小井土彰宏編『移民受入の国際社会学 選別メカニズムの比較分析』(名古屋大学出版会、2017年3月6日刊行)
http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0867-9.html

本書の編者である小井土彰宏先生より、本書のご紹介を頂きました。

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1990年代以来、移民政策は一方での新規移民受入れと非正規移民取り締まりでの厳格化と、他方での「高度技能移民」と呼ばれるカテゴリーの積極受入という対照的な傾向を示してきた。本書は、この一見対立的に見える傾向を<選別的移民政策>という一つの政策論理の両面としてとらえ、この論理が各国にどのように浸透しているかを分析することを試みた。移民政策に関しては、1990年代以来西ヨーロッパを中心にその比較研究が展開し多くの政治学・社会学的な研究が蓄積してきたが、その多くは国籍・市民権に関するナショナルな文法ともいうべき原則の比較対照を主軸に置いてきた。これに対して本書では、まずヨーロッパ諸国という範囲を超え、古典的移民諸国としての米国・オーストリア、アジア新興受入国としての日本・韓国も視野に入れ、移民に対して極めて異なる歴史的レジームを持つ国家群を含めて、新自由主義的潮流下での政策傾向を比較した。さらに、欧州に関しても統合EU機関の機能とスペインというこれまで十分に分析されてこなかった新興移民受入大国であるスペイン(2010年代初頭に500万を超える外国出身人口をもつ)を加えることで、これまで特定ヨーロッパ国民国家の移民政策分析に傾きがちだった移民政策論を超えた分析の広がりを目指した。

本書は、3年間の共同研究プロジェクトの成果として、各国でのフィールドワークを踏まえて執筆された。このことにより、ありがちな単なる各国政策項目の記述的比較を超えて、高度技能移民の受入をめぐる利害団体の動き、移民の受け入れ統合を図る自治体・NGOsの活動、各国の国境・海上で拘束された移民・難民の収容施設での状況、さらには強制送還後の移民の元非正規移民たちの人生など、各章の分析に現在進行形の現実がちりばめられている。このような共通した理論的な関心にもとづく実証的な努力によって、「高度技能」の実質的な基準のなし崩し的な低下と変質、あるいは移民政策のセキュリタイゼーションの実際の地域での複合的な社会プロセスなど、抽象概念を超えた制度・実施実態を動態的に解明することが試みられている。

この結果、歴史的な制度条件を超えて貫かれる選別の論理の共通項と、その多様な形態を分析することが可能になった。グローバル経済の中で激しく競争しながらも、相互にシステマティックな規制によって連動している諸国家がもつ、包摂と排除の両面から移動する人間たちへの新たな越境的な統治性の傾向を浮かび上がらせることに貢献できたと考える。未だに、比較の方法と理論的考察には今後に課題を残していると感じるが、幅広い移民及び移民政策研究の将来的発展への一歩となることを願ってやまない。

小井土彰宏 (一橋大学大学院社会学研究科教授)