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【EUに関する新刊】六鹿茂夫編『黒海地域の国際関係』(名古屋大学出版会、2017年1月30日刊行)

mutsushika-2017六鹿茂夫編『黒海地域の国際関係』(名古屋大学出版会、2017年1月30日刊行)
http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0863-1.html

本書の編者である六鹿茂夫先生より、本書のご紹介を頂きました。

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近年、黒海地域の地政学的、戦略的重要性がますます高まっている。2008年のジョージア=ロシア戦争、2014年のロシアによるクリミア併合と今も続くウクライナ東部ドンバスの武力紛争、それらへの対抗措置として打ち出されたNATOの集団防衛強化策などを想起すれば、黒海地域の重要性の高まりは一目瞭然である。しかも、中国が一帯一路政策を掲げてこの地域との関係強化に乗り出したばかりか、中国の南シナ海政策は、ロシアの南下政策―セヴァストポリから黒海、トルコ海峡、東地中海を経てシリアへと向かう政策―と歩調を合わせるかのようにして進められてきた。その結果、黒海は、北極海、東シナ海、南シナ海、インド洋、東地中海など世界中で展開される、海洋をめぐるパワー・ポリティクス(権力政治)の一角を占めることになった。それ故、日本の東シナ海、南シナ海、北極海政策は、黒海地域の国際関係を勘案しながら進めていくことが不可欠となった。さらに、北方領土問題も、黒海地域で生じたウクライナ危機に端を発する新冷戦構造において、新たな諸大国(米欧露中)間関係と密接なつながりを持つに至ったが故に、黒海地域の国際関係を理解することが日本にとっても不可欠となったのである。

本書は、このようにして世界政治におけるフォーカル・ポイントの一つとなり、日本外交にとっても重要性を増した黒海地域の国際関係について、日本ではじめて本格的に取り組んだ研究書である。本書の特徴は、黒海地域を一つの地域として捉え、第一部で、同地域の国際関係の構造を歴史的、政治的、経済的観点から分析したうえで、第二部で、黒海地域の域内関係をより深く理解するため、ロシア、トルコ、ウクライナ、南コーカサス、バルカンの政治変動、外交政策、対黒海政策について具体的に考察し、さらに、第三部で、黒海地域に特有な課題である、非承認国家問題、輸送・商品・エネルギー、宗教や企業にみられるトランスナショナリズムに焦点をあてることで、黒海地域の特徴を複眼的に明らかにしようと試みた点にある。

このような本書は、日本では馴染みの薄いこの地域の包括的な研究書として、ユニークな位置をしめるであろう。本書が、日本における黒海地域への関心の高まり、若き黒海地域研究者の誕生、黒海地域の平和と安定に向けた支援活動やビジネスに少しでも資することができれば、編者として望外の喜びである。また、本書は、EUの対黒海政策や東方パートナーシップなど、EUと黒海地域との関りについても考察しているので、EU学会の皆様にも必ずや楽しんでいただけるものと信じている。

六鹿茂夫 (静岡県立大学国際関係学研究科教授・広域ヨーロッパ研究センター長)