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レポート

【EUに関する新刊】長部重康編著『日・EU経済連携協定が意味するものは何か 新たなメガFTAへの挑戦と課題』(ミネルヴァ書房、2016年12月15日刊行)

osabe-2016長部重康編著『日・EU経済連携協定が意味するものは何か 新たなメガFTAへの挑戦と課題』(MINERVA現代経済学叢書) (ミネルヴァ書房、2016年12月15日刊行)
http://www.minervashobo.co.jp/book/b244216.html

本書の著者である長部重康先生より、本書のご紹介を頂きました。

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2013年4月に交渉が開始された日・EU経済連携協定(日EU・FTA /EPA)は、年内妥結の可能性が高まった。自動車、電気・電子、農産品等の関税撤廃から、広範な非関税障壁除去、鉄道・トラムでの公共調達開放、地理的表示、投資、サービス、知的財産権、さらには政治協商や国際協力までをカバーする、野心的なメガFTA協定となる。

先進国間FTAで初の試みはEUカナダ間のCETA(包括的経済貿易協定)だが、人口350万人のベルギー・ワロン地域議会の反乱で最後まで成立が危ぶまれた。関係機関の奮闘で10月末にようやく暫定発効に漕ぎつけたが、EUと域内国とを当事者とする「混合協定」とされたために、正式発効には33もの国民・地域議会の批准という苦難が待ち受ける。また11月の米でのトランプ勝利でTPP(環太平洋経済連携協定)は挫折し、現在交渉中の TTIP(環大西洋貿易投資連携協定) も「宙づり状態」(EU高官)に陥った。すでに6月のBrexit(英のEU離脱)勃発で、前例のない包括的通商協定の締結が英欧間で不可避となったが、複雑な利害調整に加え「混合協定」故の困難は計り知れない。当面、欧米先進国の野心的通商協定は、息の根を止められたと言っていい。

それゆえ貿易自由化への残された唯一の希望が、日・EU経済連携協定になった。締結には、トランプ勝利後の国際環境の激変に応えて、比類なき戦略的重要性が賭けられている。TTIPは欧米間の対立激化で「宙づり状態」に陥ったが、日欧交渉には幸い、合意円滑化の「構造的優位性」がビルトインされている。欧の関税撤廃と日の非関税障壁除去との間で補完性は大きく、日欧はともに「旧世界」に属し価値観や規範意識で近接する。地理的表示を巡り対立が激化する移民は存在せず、州権との輻輳した利害調整も免れる。

本書は日欧交渉の進展を中心に、世界貿易の構造変化やWTO、メガFTA、知的財産権、TTIP、EU韓FTA 、CETA、ユーロアフリカ圏の拡張、ハイテク産業、グローバル・バリューチェーンなど、国際経済の展開と変容とを多面的にフォローする。急変続く欧州事情をご理解いただくために、EU通商政策の特色、発展、意思決定プロセスを詳述するとともに、ユーロ危機や南北格差、難民、Brexit、さらには同時多発テロやベルギーにおける「治安のブラックホール化」などアクチュアルな構造問題に対しても踏込んだ背景説明に努めた。

長部重康 (法政大学名誉教授)