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【EUに関する新刊】八木紀一郎、清水耕一、徳丸宜穂編著『欧州統合と社会経済イノベーション 地域を基礎にした政策の進化』(日本経済評論社、2017年2月1日刊行)

yagi-2017八木紀一郎、清水耕一、徳丸宜穂編著『欧州統合と社会経済イノベーション 地域を基礎にした政策の進化』(日本経済評論社、2017年2月1日刊行)
http://www.nikkeihyo.co.jp/books/view/2449

本書の編者である八木紀一郎先生より、本書のご紹介を頂きました。

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前世紀の90年代以来、欧州連合はその独自予算によって、域内後進地域や問題地域を援助し、各種の地域的課題をとりあげる欧州地域政策を発展させてきた。これは時事問題になることが少ないので欧州研究者のなかでも注目度が低いが、地域、および加盟国と欧州連合を結びつける有力な紐帯として欧州統合を支えている政策である。また、最近では「スマート・サステナブル・インクルーシブな成長」をかかげた欧州成長戦略(「欧州2020」)にとりこまれ、この戦略にとっての重要な政策手段として位置づけられている。

本書は、欧州地域政策の発展・進化を軸として、欧州統合における地域的次元の諸問題を位置づけたものである。第一部では、2008年世界金融危機以来の欧州経済の停滞のもとでの社会経済成長戦略の動揺、反欧州ナショナリズム勢力の台頭のもとでの欧州政治とマルチレベルガバナンスの再編成、環境政策とエネルギー政策の融合の「エネルギー同盟」への収斂、移民・難民問題に反映した欧州内外の地域構造をとりあげている。原稿を揃える最終段階で、英国国民投票の結果が伝えられ、それに対応して英国のEU離脱問題にかかわる補論を付加した。

第二部各論のパートでは、欧州地域政策におけるイノベーションとしてのインターレグ、ドイツのハルツ改革、イタリアの社会保障削減、ドナウ諸国のマクロリージョン戦略、スペインの再生エネルギー普及、上部ライン地域の越境通勤労働市場、フィンランドのイノベーション政策等の個別問題とともに、ソーシャルイノベーション、スマートスペシャリゼーションなどの新しい概念をとりあげている。

全体としては、欧州連合の地域にかかわる政策は、社会的次元における諸要素をとりいれながらも、その成果を保障するだけの公的な資源と制度をもたないとして、広域市場統合という新自由主義的なプロジェクトに対応したレベルの社会的「埋め込み」の政策に留まると論じている。

八木紀一郎 (摂南大学学長・京都大学名誉教授)